小骨の欠片

まめかんの日常。

ひと夏かけて初めての小説同人誌を作ってみた

ご存知の方も多いだろうが、『同人女の感情』というTwitterでもpixivでも大人気の漫画がある。
二次創作を趣味とする彼女たちに、創作の楽しさを思い出すことも多く、一読者として更新されるたびに楽しく拝読していた。
9/12更新分の第7話は『初めての原稿地獄』。

実は奇しくも、ついこの間初めての小説同人誌を作った身である。
主人公七瀬の追い込まれ方に、自分を見ているようで嫌な汗をかいたが、一方で「本を作る」ことで生まれた心の動きを残しておきたい気持ちも生まれた。
これから七瀬のように本を作るかもしれない方に参考になれば良いと願いつつ、ひと夏の記録を残すことにする。

なお、同人活動をしている友人がいれば、ぜひ頼ることをお勧めする。たぶん親切に教えてくれる。
これはあくまでも孤軍奮闘する場合の記録、と思って頂きたい。

■そもそも本を作るきっかけ(飛ばしてOK)

普段の休日はコンサート・ミュージカル・舞台などの現場を詰めまくっているが、2020年はすべての予定が白紙になり、平たく言えばオンライン飲み会とNETFLIXを行き来するような日々だった。
そんな中、とあるコンテンツにハマり、思い余って二次創作を始めた。
創作活動は大いに時間を費やすことを前提とした趣味だが、これだけ時間があればそれなりにできるのではないかとの目算もあった。

そうやって休日を費やしていったところ、書き上げた作品をまとめればまあまあな文字数になることに気付いた。
その時、はるか昔に「いつか本を作りたい」との夢を持っていたことが蘇り、これが最後の機会かもしれない思い始めた私は、自己満足の世界なので頒布できるかはおいておいて、最初で最後かもしれない本を作ってみるか~と軽い気持ちで本を作ることを決めた。
せっかく作るなら印刷所で刷ろう!
というのが、最初に決めていたことのすべてである。

■STEP1:工程の多さに唖然とする

こちら、前述の作品(5p)を見て頂くと大変分かりやすい。

「執筆」は最重要事項には間違いない。しかし、その他にも決めなければならないことが山のようにあり、本としてのクオリティを追い求めるならすべて妥協したくない要素になる。
この時点では分かっていなかったが、「本を作る」ためには三種類の役割を並行して担う必要があった。
 ①執筆者
 ②デザイナー(表紙・目次・中扉)
 ③進捗管理&制作物チェック(印刷所の手配・校正・レイアウトの確認・ページ数やフォント埋め込み等のチェックetc…)
さらに頒布をするのであれば、宣伝担当の視点やある程度のコミュニケーションも必要だし、通販をするならば梱包関連の準備と正確に発送するための事務的な部分も求められる。
つまりは、自分の不得意な部分も含めて、あらゆる引き出しを順番に開けないと到底出来上がらないということだ。
ちなみに私の場合は、②③がまるっきりできないため、執筆&校正がおおむね終わってから入稿まで一週間以上かかっている。

■STEP2:印刷所の検討(見積りを作る)

イベントへの申し込みをしていなかった(もしもほしいと言ってくれる方がいたら通販できればな~くらいだった)ので、本文が出来上がってから最終的な仕様とページ数を決めることにした。
とはいえ、見積りは早い段階で取っておくことをお勧めしたい。
なぜなら、締め切りと一冊当たりの価格のイメージがつかないから。

いくつかの仕様・ページ数・締め切りで見積もりを取ると、だいたいの相場が分かる。
ホームページから簡易見積もりができるところが多いので、いくつか見積もりを取っていくと候補が揃ってくる。
最終的には、自分が思う頒布価格と装丁に近い印刷所をピックアップして、その中から選ぶことになる。

また、印刷所ごとに特色があるので「推し印刷所」等で検索すると楽しい。
印刷所を見比べるのはとてもワクワクすることなので、いつか本を作るなら、と想像したときに一緒に検索してみることを推奨したい。

初めてなら特に、価格よりも入稿手続きが分かりやすく、原稿チェックを丁寧にやってくれるようなところが良い。
あと(価格との兼ね合いはあるが)思いのほかすぐに本は出来上がる。印刷所の仕事が早いというのも、今回初めて知ったことだ。

また、いざ注文となると、紙の種類や表紙の加工などのオプションを自分で細かく選ぶことになる。
この辺も印刷所によってはお任せのプランもある。
どの程度自分がこだわりを持っているのか、またどのくらいの金額を出すつもりがあるのか、この辺りは印刷所決めに直結するので要件を整理する必要がある。

■STEP3:執筆

執筆については割愛。
なお、今回はほぼweb再録で、本文はできていたも同然(とはいえ校正でかなり手直しした)の状態でも大いに苦労した。
堅実派の方は、同じようにすでに出来上がった文章で本を作ってみてもいいかもしれない。
書き下ろしの場合、頒布価格に跳ねるから計画たてたページ数で執筆して~と言うのはその通りなのだが、やはり初回だけは本文書き上げてから印刷所探したりしても良いかも……。
この辺は書いている人の経験値にもよると思うので、一概には言えないが、とにかくマルチタスクのできない人間にとって、執筆・デザイン・細かなチェック作業を並行するストレスはやばかった。

■STEP4:校正

校正作業はiPadがめちゃくちゃ使えたのでもともと迷っている方にはお勧めしたい。
こちらの方のnoteを読んで購入を決めた。仕事にも使っているので、買って悔いなし。
とにかく紙出しせずに何回も見直せるのと、電子書籍のような形で通読できるのが良い。
二次創作字書きにiPadはかなり良かった|長谷川ミオ|note

また、割高になるので微妙だが、最終的な仕上がりを見たい場合はネットプリントの冊子印刷も使える。
セブン‐イレブンのマルチコピー機で同人活動をもっと手軽に・もっと楽しく!

■STEP5:段組み

段組みもググればいろんな方のこだわりも出てくるが、もはや工夫しようという気力もなく、栄光さんのテンプレートに頼った。
テンプレート各種 | 同人誌印刷・グッズ制作|株式会社栄光

本文をテキストファイル等で書いて流し込みたいときは、シメケンプリントさんのPDFツールが神がかっている。
縦書小説PDFメーカー|シメケンプリント

とにかく印刷所のホームページは優しい。スマホ入稿のHow Toなんかもある。
スマホで出来る!小説同人誌のつくりかた

本文フォントを決めるときに参考にさせてもらったのは文庫ページメーカー。
Twitterで小説を書いている人だと、一度はお世話になっていると思う。
いろんなフォントに変換できるので、実際に本文の一部を入れてみるとイメージができる。
文庫ページメーカー

■STEP6:表紙・目次・中扉

目次と中扉は必要に応じて作ればOK。
シンプルなものなら、前述のシメケンプリントさんのPDFツールで作れてしまう。
Wordなどで作ってもいいが、もう少しこだわりたい場合はCanvaなどのデザインアプリも使える。
https://www.canva.com/

あとは初心者がわけがわからないサイズ設定。
こちらの方のnoteは表紙のサイズ設定を一から説明してくださっていてありがたかった。
3mmぬりたしとはなんぞや、解像度とは?といった初歩から書いてくれている。
なお、自分で段組みを組む場合は本文にもぬりたしの考え方を適用する必要がある。
(栄光さんのテンプレートはその辺も織り込み済みなので気にしていなかった)
背幅は本文用紙とページ数で前後するので、ページ数はもちろんのこと、なるべく印刷所を決めて紙を決めてからの方が良いかもしれない。
私は本文用紙を決めていなかったので、数種類の紙で背幅見てみて中間っぽい値をとった。
【はてブロに移行しました】CanvaでなんとかしてA5同人誌の表紙を作る|清水|note

表紙はどう作ればいいのかいまだによくわからない。
たぶん友人にお金払って受けてもらえたらそれが一番良い気がする。
自分で頑張るなら、普段からいいなと思ったデザイン、文字配置をこまめに残しておくのがいいのかも。

この辺も読んだ。
#字書きが絵描きにお願いせずに素材やフォントや写真を駆使して作った表紙 タグまとめ - Togetter

↑でも紹介されていたが、印刷所に任せるという手段もある。
わくわくドキドキデザインセット
セミオーダーデザイン・セミオーダープレミアムデザイン / 同人誌印刷会社なら・初めての人“にも”優しい同人誌印刷所「しまや出版」

■STEP7:文字フォントの埋め込み

地味に苦労した。小説本文はPDF入稿で、フォント埋め込みが必須(印刷時にレイアウトが崩れる可能性がある)。
本文が出来上がったら、すべてのPDFについて、フォントを埋め込んだか必ず確認する必要がある。

ちなみに、私は目次と中扉のフォントの埋め込み確認を忘れていた。
Canvaで作ったが、埋め込みできないフォントというのもあるらしく、最後の最後でフォントを変更する羽目になった。当たり前だが予めチェックしてから作業に入るのが良い。
Word→PDFへの書き出しでシステムフォントが埋め込みできません | 同人誌印刷の緑陽社
CubePDFを使ったPDF出力/PDFデータの作り方/特急冊子印刷のページプリント.jp

■STEP8:あとがき・奥付

奥付に書かないといけない内容はこちらの通り。たいして量がないので、本文テンプレートを利用して作った。
奥付表記について|同人誌印刷・オリジナルグッズ印刷のコミグラ

■STEP9:通販まわり

無事に入稿した後、欲しいと言ってくださった方に向けて通販を準備した。
BOOTHもしくはpictSPACEが二大巨頭との認識。
両方匿名配送ができ、手数料も大きく変わりない。
pictSPACEの方がパスワードかけられたりするので、少部数向きなイメージ。

また、あとで知ったが、おたクラブさんの通販代行がめちゃくちゃ楽そう。
(おそらく)刷り上がった現品を見ずに通販を始める形になるので、そこが初めてだとハードルが高いかな……。
https://otaclub.jp/otaclub-market-place/

自家通販の場合は、梱包をどういう形でやるのかと資材集めも印刷待ちの間に決めておくと良い。
とりあえず水濡れと折れを防止する、という観点で選ぶ。正解はないので正直難しい……。
ちなみに少部数でも通販サイトをあいだに入れることにより、配送先をcsv形式で出力できる。
そのままクリックポストのテンプレートに流し込むと住所や名前を間違える可能性は極端に低くなり、精神的に楽。

■STEP10:いざ本が来て

入稿してから届くまでが最もナーバスだった。
終わった後の解放感が落ち着き、絶対にミスしてる!なんであんなこと書いたんだろう~みたいな負の感情にとらわれた。

ただ、いざ本が来ると全部吹き飛んだ。
段ボールを開封するときにちょっと手が震えて、この世に自分の本というものが出来上がったことに感動した。
検品を兼ねて読み始めると、表紙をちょっとキラキラさせてみてよかったなとか、ここの描写迷ったなとか、この本にまつわるひと夏のさまざまな出来事が脳内に蘇っていった。
選ぶことも勉強することも用意することも多すぎて正直パンクしていたし、自分の全てのリソースを吸い上げられていたような濃い日々だった。
もう一回やれるかと尋ねられたら、まったく自信がない。

それでも、ひと夏をかけて、自分のためだけに、宝物になるような本を作れたことが、今なお嬉しくてたまらない。
アラサーと呼ばれる年齢になり、今更になってこんな形で「本を作る」という夢をかなえることになるとは思わなかった。
大変だったし、完ぺきにできたのかは分からないが、とりあえず形になったし、やってみてよかった。

同じような夢を持っている人がいたら、自分のための一冊、ぜひ作ってみてもらいたい。
というのも、Covid-19の影響を受け、印刷所の経営が厳しいとの話を見かけることが増えた。
印刷所もその逆風を乗り越えようと経営努力をしていて、少部数でもこだわった本を作れるようなプランを強化しているところが多く、少部数で本を作りたいひとにうってつけの状況になっている。
背中を押してくれる、いいチャンスだと思う。

■おわりに

こうやって刷った本だが、有難いことに欲しいと言ってくださる方がいた。
どこかに私の本を読んでくださった方がいるのだと思うと、不思議な気持ちだ。
本を介して出会った方との縁が結ばれていくことは、期待していなかったような幸せなことだった。
誰かの手元に届いた本に対しては、楽しんでくれたらいいなあ、なんて大それたことを願っているし、読んでくださった方といつかどこかでリアルにお会いできたらまた心が大きく動くような気がする。
そんな日がくるか分からないけれど、夢は見ていたいなと思っている。

また、自分で本を作った副次的な効果として、表紙や装丁、目次や中扉のデザイン、本文フォントや段組み、紙まで、「本」というものに対する解像度や興味の持ち方が大きく広がった。
「本」を好きでいたつもりでいたけれど、これからはもっと楽しめる気がする。

そんなわけで、私にとって同人誌を作ることは、ひと夏をかけても悔いがないくらい、かけがえのない経験になった。
これから作られる方にとっても、同じように忘れられない思い出になることを願っている。
また、たいていのことは印刷所のホームページに書いてある(本当に心の支えになった)ので、初心者が突っ込んでも意外と大丈夫だとも申し添えておく。

また、趣味としては、作業時間的なコストはめちゃくちゃ高いが、金額的なコストは(普段の趣味を思うと)そこまででもないように感じた。
心配な人は適当な見積もりを眺めるところから始めましょう!

■おまけ

ちなみに、普段はNEWSの加藤シゲアキさんのファンをしているのだが、彼はアイドルであり小説家だ。
自分がすみっこで小説なるものをかじったことにより、多忙なアイドル活動の中、長編や連載を書き続ける彼への尊敬の気持ちがますます高まったことを述べて、終わりとしたい。

既刊の旅行に関するエッセイは、そう簡単に旅行がしにくくなった今だからこそ読んで欲しい一冊。
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また、11月刊行予定の「オルタネート」もすごく好き。配って歩きたいくらい。書店に並んだら、思い出してくれると嬉しい。
加藤シゲアキ『オルタネート』新潮社公式サイト
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ここまで読んでくださり、ありがとうございました!